神様「おいおい、熱心に呼ぶヤツがいるから誰かと思えば、長屋裏の犬っころじゃないか」
犬「やっときたよ、この引きこもりが。百度参りってちと多くないかい?不景気なんだし、少しぐらい割り引いてくれてもいいじゃないか」
神様「そしたら威厳まで割引されちまうだろうが、ただでさえ、最近は犬っころぐらいしか呼ばねェんだから」
犬「いつまでも市場を見ずに、安泰だと努力しないからそうなるんでさ。それに犬っころってのはやめてくれ、こちとらご主人にもらったシロって立派な名前があるんだ!」
神様「シロって…安易だな。おめぇさんが白いからってんでシロなんだろ?」
犬「黒いのにシロだったら変じゃないか」
神様「そういうことじゃねぇよ」
犬「ご主人につけてもらった名前にケチつけるってんならいくら神様でものどぶえ食いちぎるぞ!」
神様「おお、怖っ!まったく最近の奴は切れやすくていけねえ、ちゃんとカルシウムをとれや」
犬「こちとら、毎日、骨ばかりでイライラしてんだ!」
神様「わかった、わかった、落ち着けよ、そうかい、今日の願いは飯を充実させろってことでいいのかい?」
犬「よくねぇよ!全然わかってねぇじゃねぇか!」
神様「毎日、ステーキでいいか」
犬「いいわけねぇだろ!話をききやがれ、大体毎日、肉の固まりなんか食ったらご主人が無一文になっちまう」
神様「それもそうか、おめぇさんのご主人は遊女の千絵だったか」
犬「なんだい、その目はご主人を馬鹿にするなと言ってんだろ!周りはご主人のことを売れない遊女だなんだといいやがるが俺にとってはかけがえのない人なんだ」
犬「捨てられてた俺を拾ってくれた時の手の暖かさは忘れられねぇ。俺を呼ぶ声、そばにいる時の安化粧の臭い、俺を撫でる時の少し憂いを帯びた顔、全てが愛おしい。何より、三味線を練習している時の手つきだ、皆は下手くそだと笑うが俺はあれ以上に綺麗なものを知らねえ」
神様「ずいぶん、惚れてんだな。そいつは忠義以上のもんだ」
犬「犬畜生がおかしいと思うだろう?笑ってくれて構わねぇよ。だけどそれが俺の全てなんだ」
神様「笑わねぇよ」
神様「そうかい、随分熱心に呼ぶと思ったら、そういうことかい。そういうことなら、おまえさん、人間にしてやるよ」
犬「何言ってんだ!?俺は人間になるためにあんたを呼んだんじゃねぇぞ?」
神様「あ?だったらおまえさん、おまえさんの願いはなんだってんだい」
犬「まったく、ちゃんと話しを聞けって言うんだ。いいか?俺の願いはなぁ…」
犬「俺を猫に変えてくれ。上質な皮の綺麗な猫によ」
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