「相生、こないだはサンキュ!おかげで、高利さんと付き合うことになったぜ!いやぁ、ほんと、お前に相談して良かったよ。相生、マジ愛のキューピットって感じ」
放課後、人気の無くなった教室で、益子に声をかけられた。
嬉々として話す内容から、こないだ乗ってやった相談の報告といったところか。
「今日も一緒に帰ろうって言ってるんだぜ、あぁ、彼女と登下校!俺ってば幸せ」
益子は身をくねらせながら惚気ている。気持ち悪い。
先日、益子から「高利さんと付き合うためにはどうすればいい?」といつになく真剣に相談されたのだが、報告を聞く限り上手くいったようで何よりだ。
でも、まぁ、上手くいって当たり前なんだけど。
なぜなら、僕は高利さんからも「益子くんが好き」って相談を受けていたんだから。
相談に乗るフリをして上手く誘導してやれば、そもそも両思い。上手くいかないはずがない。
僕には特技というか才能というか体質の様なものがある。
それは、やたら人から相談事をされるという事だ。
昔の僕にはそれが非常に億劫だった。
数多の相談事に乗ってきた僕からすれば、相談なんてものは基本、愚痴の様なもので、いつだって相談などといっておきながら一方的に喋るだけ、結論は本人がとうに出してる。
相談なんて、その結論の後押しを相談相手に押し付け、逃げ道をつくる行為に過ぎない。
いわば、責任転嫁だ。失敗は相談相手、例えば僕のせいになる。
そんな事にも気付かずに、昔の僕は愚直にも真摯に相談事を受け止め、走り回り、自らを磨耗させていた。
だけど、今は違う。人のために走り回り、失敗の責任を負わされ、疲れ果てた時、僕は気付いた。
相談事とは“聞く”ものではなく“使う”ものなのだと。
それからは、むしろ積極的に色んな人の相談事に乗った。
そうして得た相談事を組み合わせ誘導した。
もちろん、最初の方は上手くいかないこともあったが、様々な人間から相談事を引き受け、時には強引に聞き出し、今では他のクラスからも相談者がやってくる。
相談事なんて大抵は人間関係の問題だ。
僕は相談を聞きながら情報を集め、仲を取り持ったり、別の方向に持っていったり、破滅させたり、様々に誘導した。
つまり僕に相談した人間は、僕の手の内で転がされているに過ぎない。
今回の益子と高利さんの件なんて、僕が誘導するまでもない最高の形だった。
なにしろ、二人共、僕を代理としてお互いに告白したのと変わらないのだ。
それなのに、僕のおかげという事になり、僕の信用は上がり、益子が今回の事を吹聴してくれれば、さらに相談者が増えるようになる。
このまま相談者が増えていけば、僕が裏で学年、いや、学校の人間関係を思うがままに操ることができるようになる。
相談者が増えれば増えるほど、情報量は増えるし、僕が思うように操れる範囲が広がる。
僕は、内心ほくそ笑み、何も知らない益子に声をかける。
「今日も彼女と一緒に帰るんだろ?高利さんのこと待たせてるんじゃないのか?早く行ってやれよ」
「おぅ、そうだった。どうしてもお前にお礼が言いたくてよ。何かあったらまた頼むわ!」
「じゃ、悪ぃけど、彼女が待ってるから、俺ぁ、帰るわ!」
俺は相生に向けて、ビッっと敬礼。教室から飛び出す。
いやぁ、ほんと相生に相談して良かったぜ!何しろ我がクラスの相談役ですからなぁ、相談役ってウケル!
相生がが色んな奴から相談受けてるのは知ってたし、こないだ、高利さんが相談してたって、風の噂で聞いて、俺ってばピーンときた。
高利さんは相生に恋の相談をしたんじゃないかってね。
だから、俺はアイツに相談した――結果はバッチ!
相生がどう思ってるか知らないけど、アイツはめっちゃいい奴だからな。
例えば俺が「高利さんと付き合いたいんだ」って相談したら、高利さんが俺のこと好きなら相生はOKサインを出す。脈がなければそれとなく俺を止めるはずだ。
つまり、おかげで俺は告白する前に百パー成功するって確証を得られるってわけ、だから俺は高利さんに告った。
実をいうと高利さんの他に、俺と仲のいい梨さんって子、どっちに告白しようか悩んでたんだよね。やっぱフられんのは嫌じゃん?プライドが傷つくっつーか。
だから、俺は絶対成功する高利さんに告ったわけ。
おかげで、俺、彼女持ち!
俺は階段を走り降りて、下駄箱へ向かう。
下駄箱の前には俺のマイスウィートハニィー、高利さんがいる。
俺は笑顔で手を振る。
「待たせちゃってごめーん!」
「大丈夫。益子くんの用事は済んだの?」
私は、笑顔で走ってきた益子くんに訊ねる。
「おうばっち」といいながら靴を取り出す彼を眺める。
益子くんは肩で息をしていた。私と帰るために、教室から走ってきたのかと思うととても可愛らしい。
益子くんとこれからずっと一緒にいられるのかと思うと、相生くんに相談しておいて本当に良かったなぁと思う。
今日、益子くんは「用事があるから先に下駄箱で待ってて」とだけ言って、どんな用事か詳しくは話してくれなかったけど、私が出るとき、教室には益子くんの他には相生くんしか残っていなかったから、どんな用事だったのかは大体予想がつく。話の内容も。
私の作戦は成功していた。
相生くんがクラスの男子から相談役として頼られている事を私は知っていた。
だから私は、相生くんに「益子くんが好き」だと伝えておけば、いつか益子くんの耳に入るだろうと思っていた。
それとなく、他の女子に私が相生くんに恋愛相談した事も伝えておいたのも効いたのかな?思った以上に早く、益子くんは私に告白してくれた。
益子くんはどうやら、私か、事もあろうに梨さんかで迷ってたみたいだから、相生くんに後押ししてもらった。
もちろん、後押ししてくれるようにしたんだけど。先手必勝。そのための相談。
作戦通り、私は益子くんと付き合うことができた。上手く動かされてくれた相生くんには感謝してもしきれない。
私は微笑んで益子くんと並んで、昇降口から出る。
「それじゃ、一緒に帰りましょ?」
HOME