心地よい雨音が世界を包んでいる。
 雲に遮られた陽の光は、爽やかとはいえず、そのかわりに優しい。
 そんな陽の光を、さらにカーテンで弱めた薄暗い部屋。
 暗闇とは違う安心感に満たされ、僕は布団の中でまどろむ。
 こんな日はゆっくり寝て過ごすには最適だ。
 大粒の雨が落ちる音。屋根や窓に当たるその音が雨足の強さを感じさせる。
 外に出ても、濡れて不快な思いをするだけだ。
 幸い、今日は休みで用事もない。
 近所の子供の声や、車の音、いつもは騒がしい生活音も雨音に消えて、少しの邪魔も入らない閉じた世界は平穏そのものだ。
 部屋の中で感じる雨の世界は、外とは正反対に心地いい。
 僕は欠伸をして再び、夢の世界に落ちる。

 風の荒れる音が響く。
 家が軋む。
 僕はそれらの音で目を覚ます。
 相変わらず部屋の中は薄暗く、どのくらい寝ていたのかもわからない。
 一度、起き上がり、トイレを済ませ、コップ一杯の水を飲むと、布団の上に座り、部屋の壁に背を預ける。
 壁越しに風が吹きぬけていくのを背中に感じる。
 随分と荒れているようだ。
 しかし、僕には台風や氾濫した川による被害を受けた経験などないので、気分は穏やかなものだ。寝惚けていると言ってもいいかもしれないけど。
 危機感なんてなかった。外の世界の雑事やストレスなんかとも今は無縁だ。
 僕は再び横になる。
 今日は休むにはぴったりの日だ。
 身も心も休める事にしよう。

 雨の音はいまだに僕の部屋を支配していた。
 疲れが溜まっているのか、はたまた寝すぎで眠いのか。
 雨音を聞く限り、止みそうにない。
 僕は外に出るのを諦め、布団の中にもぐる。

 変わらない雨音。
 変わらない部屋の明るさ。
 平穏で、それしかない空間。
 変化のない世界。
 あいまいな時間。
 長時間寝ているはずなのに部屋の中のあまりの変わり映えのなさに、実は一回、一回の睡眠時間はとても短いのかもしれないと思う。
 まどろむ意識は僕を再び夢の中へと誘う。

 おかしい。
 いくらなんでも寝すぎだ。
 雨は依然変わらずに降り続けている。部屋は薄暗いまま。今は何時だ。
 僕は慌てて、携帯を開く。
 なんてこった!僕は三日間も寝ていたらしい。
 一昨日の朝に二度寝してからというもの、起きては寝て、起きては寝てを繰り返し、ちょうど日が沈んでからはぐっすり寝ていたから日が変わったのがわからなかった。
 途中で起きても、トイレにいくとか、軽く飯を食ってすぐ寝てたからな。
 時計を見とけばよかった。っていうか何時まで降ってるんだよ雨!
 っとそれどころじゃない。急いで仕事に向かわなきゃ!ただでさえ昨日、無断欠勤することになってしまったんだから。あぁ、上司の怒る姿が目に浮かぶ。
 僕は急いで着替え、飛び出すように玄関のドアを開く。
 僕はそこで、時計だけじゃなくTVを見ておくべきだったと後悔した。
 せめて、携帯でトップニュースだけでも見ておくべきだった。
 三日三晩、降り続けた雨は、僕が寝てる間に、世界を沈めていたのだ。
 僕が玄関のノブを回すと同時に、なだれ込む様に大量の水がドアをぶち破り、僕を飲み込んだ。  


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