ある番長の記録
「陽介!ここを開けなさい、陽介!」
さっきから親が僕の部屋を叩いている。部屋には鍵がついていて、マスターキーを部屋に持ち込んだ僕の部屋は、もう外からは開けられない。
もう、出たくない。
部屋を出たら、学校に行かなければならない。学校には行きたくない。あれは、地獄だ。
僕のクラスは、荒れていた。
たちの悪い不良が多く、その中でも派閥が分かれ、けんかやいじめが横行していた。
ごく普通の中学生の僕はどこのグループにも属すことができず、不良グループからいじめられていた。
だがそれでも、この半年間は耐えてきた。
それに、好きな人がいた。こんな僕にも分け隔てなく接してくれるクラスの祐子さんに、僕は密かに思いを寄せていた。彼女は不良ばかりのうちのクラスにおいて、唯一まともな女子生徒だった。
気さくな人だったが、まともすぎる彼女はそのクラスでは多少浮いていた。そんなところも僕には共感できたのだ。
そんな彼女への思いを、家に帰っていつも日記に書き綴っていた。しかしある日、クラスの不良共が僕の部屋を遊び場にしようと押し掛けてきた。散々騒ぎ立て、お菓子を食い散らかし、僕をおもちゃにした後、奴らは僕の日記を見つけた。
散々馬鹿にされ、大声で通りに向けて音読された。フルネームの宣言付きでだ。
そして日記は持ち去られ、恐らく今はクラスで笑いの種にされている。
もう、学校には行けない。
「陽介!ちょっと開けなさい、陽介!」
親がいつまでもドアを叩き続ける。だがもう無理なんだ。勘弁してくれ。
しかし、しばらくすると音が止んだ。
なぜだ?
急に孤独感に襲われる。
一人になると、冷静に現状を考えだしてしまう。
僕はこれからどうしたらいい?
このままこの部屋で一生過ごしていけるとでも思っているのか?
そんな事、できようはずもない。
「陽介君?いるの?」
急に声がした。しかもその声は……
「……祐子さん?」
「あっ、ごめんね。私、その……学校であなたの話を聞いて」
「……そう。ごめんね。迷惑をかけちゃったかな」
「いや、私は別に何も!でも、クラスのみんなには知れ渡っちゃって……ほら、あの奥田君達って、派手なことやりたがるじゃない」
僕は頭を抱える。予想通りだ。やつらは、面白ければなんでもやる。人間じゃない。
「……私ね、嬉しかったよ。こんなクラスにも私を好きになってくれるような人がいるんだって。でも、ごめん。その気持ちには答えられない」
それを言いに来てくれたのか。なんていい子だろう。好きになってよかった。
「大丈夫。わかってる」
「でもあたしもね……あんなクラスにいたくない。ほんとだったら、あたしも部屋に引きこもって、好きな小説だけ読んで過ごしていたいよ。だけど、学校は行かなくちゃいけないし……もう、やだ」
彼女も、僕と同じ気持ちを持っていたみたいだ。
だが僕の中には、沸々と怒りが湧いてきていた。
僕はいい。だがこんなにも優しい彼女すら、嫌な気分にさせてしまうクラスなんて。
「もうあんなクラス、壊れてしまえばいいのに」
僕は、扉の鍵を開いた。
そこには、涙目の彼女の姿があった。
僕は、ありがとう、と言って彼女を家に帰した。
そして翌日。
僕は髪を真っ赤に染め、金属バットを片手に登校した。
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