カレンダーの誓い
 「おいおい無理だって、やめとけよ」
 「俺は決めたんだ。あの人に告白する」

 目標ってもんは、達成してこそ意味がある。

 俺はなんでもできるような人間じゃないから、立てた目標全部達成したわけじゃない。それでも、好きだった百人一首は全部覚えたし、社会科で学年一位を取ったこともある。だから今日まで三ヶ月。俺は毎日ベッドの横のカレンダーを一枚破る度、腹筋背筋百回ずつ、五キロのランニングを行ってきた。体重も二十キロ落とし、ついに目標の半分は達成した。目標のもう半分は、三ヶ月前一目惚れした一つ下の学年の彼女に今から見せるはずの勇気だ。
 「痩せればいいってもんじゃないだろ」
 「デブが好きな女なんていないだろ。それにもしかしたら俺のこの努力を見ててくれたかもしれない」
 放課後、彼女を体育倉庫裏に呼び出し、想いを伝えた。
 「……あ、すいません、私……もっと太ってる人が好きなんです……」

 三ヶ月の努力と目標は、打ち砕かれた。

 しかし、それで諦める俺ではなかった。彼女への想いを叶える為に、さらに今日まで一ヶ月。カレンダーを一枚破る度にそれまで断ってきたフライドチキンやポテトチップスをガツガツと食い、三ヶ月で痩せた二十キロを取り戻し、さらに十キロ太った。
 彼女を体育倉庫に呼び出し、再度想いを伝えた。
 彼女は一ヶ月で見違えてしまった俺を見て、戸惑うように答えた。
 「……え、すいません、私……本気にされるなんて思ってなくて……あなたのこと好きじゃないんです。ごめんなさい」

 合計四ヶ月の努力と目標は、今度こそ打ち砕かれた。

 俺の心は大荒れだった。太ってる人が好きって言ったじゃないか、あれは嘘だったのか?つまりそう言っておけば勝手に諦めるだろうと思ったのに俺ががんばっちゃったからこんな?
頭の中が大雨台風大火事山火事洪水津波大災害の大混乱だ。そんな混沌とした頭のまま俺は走って家まで帰った。
俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。


 そして俺は、ベッドの横のカレンダーを掴み、窓の外に思い切りぶん投げた。


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