レバー

今日という日はなんて素晴らしいんだろう!

名家の家柄に生まれた私は将来は世界に影響を与える企業を継ぐ為、厳しい教育を受け、エリートの中のエリートとして育てられた。だけどそんな私に恋人はおろか友達すら一人もできず、家庭教師を兼ねている従者からはいつも怒られていた。「人間関係を構築する技術もまた上に立つものとして必要な技量です」愚直で自分よりも他人の役に立ちたい性分の私にはその言葉がむしろ交友関係をつくることが相手を利用することのように思えてどうしてもうまくいかなかった。

だが、ある日あの人に出会った。

彼はいつも人との関わりを拒絶していた。

友達という名の人と人とが利用し合う醜い社会戦争に辟易していた私には彼の振る舞いがむしろ憧れだった。いつしか暇さえあれば彼を目で追うようになり、私は自分でも落ちたことなどなかった恋というものを強く意識した。人は、こうやって片思いに落ちるのか。いつも気が付けば彼のことばかり考えている。何たる無様。だが私には止められなかった。あの人に好かれたい…その想いだけが強くなり、ついに私は彼に告白したのだ!

告白は成功した。

好きだと伝えると、彼は笑って僕もだよと言った。嬉しくて死にたくなるほどだ。そう、死にたくなるほど、という表現はこういう時にこそ適切なのかもしれない。彼は、家に遊びに来ないかと誘ってくれた。あんなにも人間嫌いな筈の彼が、そんなにも私の事を気にかけてくれていたのだろうか。私は更に舞い上がりスキップのごとき歩幅歩調で彼の後ろをついていった。家に着くと彼の両親が迎えてくださり、私の家ほどではないが中々綺麗に掃除の行き届いた素敵なリビングに通された。彼の隣に座り、お茶を頂く。

「ねえ、僕の一番好きな食べ物を知ってる?」

唐突に、彼は私の脇腹当たりに目をやりながら、そう尋ねた。

「ふふふ…うちの家族はね、みんなレバーが大好きなんだ。」

ふと見ると、彼の父と母が机の周りに立って怪しい目で私の脇腹を見つめていた。



HOME