終わりの夜明け
 僕はタバコを吸おうとして、もう吸えない事を思い出してやめた。

 もうすぐ、夜が明ける時間、僕は家の前に立って生まれ育った家を眺めている。

 僕の顔のすぐ横を通って、朝刊が投函される。

 もちろん新聞配達の人は僕に気づかない。見えていないのだから仕方が無い。

 普通、僕の事は見えないのだけど、葬式に来てた親戚の子と目が合った時はビックリした。

 純粋な瞳が不思議そうに僕を眺めているのを見て無性に申し訳なくなったっけ。

 親父、泣いてたな。

 僕の両親は、僕の事なんていなくなればいいと思っているように感じていたから意外だった。

 母親は号泣しながら僕を抱きしめて何度も謝りの言葉を口にしていた。

 抱きしめ返す事のできない僕を見て、親父は拳を握り締めて静かに涙を流していた。

 愛されていたんだ。

 僕はその光景を少し離れたところから眺めて胸が締め付けられるような思いがした。もう涙を流すことはできなかったけど、哀しくて、辛くて、嬉しくて、泣きたかった。

 僕は空の端が白くなってきた夜の街を歩きながら色々と思い出していた。

 僕のために集まってくれた人たちを思い出す。

 見たことも無いような親戚、親の知り合い。

 驚いたのは僕の知り合いも来ていたことだ。

 学校を卒業してから誰とも会っていないのに。

 小学校のときは仲が良くて最近は全然喋ってなかった奴、一緒に課題をしたことがある奴、忘れ物をして困っていた時に物を貸してやった事のある奴、ほんの少しのつながりだったけど、何人か僕のために来てくれた。胸を痛めてくれた。

 もっと仲良くしておけば良かった。友達になれたかもしれない。

 なのに、僕は自ら可能性を捨ててしまった。

 僕は孤独じゃなかったのに、誰とも触れることができなくなって僕は初めてそれに気づいた。

 最後の場所を探していた僕は昔よく遊んだ公園にたどり着いた。

 懐かしさがこみ上げてくる。

 僕はもっと素直に生きれば良かった。

 もっと周りを信じれば良かった。

 後悔はある。だけど、僕はもう、ここに留まっていちゃいけない。

 朝日が徐々に空を明るく変えていく、再生を思わせる光が公園を照らし出していく。

 僕は大きな後悔を捨て、少しの希望を拾って、その光に向かって走り出す。

 そして僕は消えた。



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