3-1 :
ワールドコード
僕は負け犬だ。
今まで僕はいつだって自分の思い描く未来を実現してきた。
そりゃ、全て思い通りとはいかなかったけれど、少なくても理想に近いものを選んできた。
人生は選択の連続だ。誰が言ったかはわからないけど、僕にとっては比喩でもなんでもなく、その通りだった。
人生は選択の連続だ。
ある事柄がある。僕はそれを選ぶ。最低の結果を導き出す答えを除外し、最良の結果を得られる答えを選び出す。
僕にはそれができた。
僕にしかできなかった。
だから僕は最良の選択をする。僕にとってではなく、世界にとって最良の選択を。
一人でも多くの人が笑いあって生きていける世界。
悲劇はなくならなくても、一人でも多くの人が悲しむ事のない世界。
僕は全ての人にとって最良の世界を創りたかった。それが僕の義務であり、使命であり―
――夢……だった。
それなのに、僕は失敗した。
未来の選択肢が1.『最低』2.『最低』3.『最低』4.『最低』5.『最低』6.『最低』……『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』『最低』
『最低』!どの選択肢も最低!最も低いはずなのに、全て!どれを選んでも悲劇は回避できず、何を選んでも悲劇は起こる……僕にとってはどれも最低の選択肢だ。矛盾してる。
そんなの認めることなんてできない。僕は『最良』の選択を探す。選択A→結果1、選択B→結果1、選択C→結果1、選択D→結果1、選択E→結果1、選択F→結果1、選択G→結果1、選択H→結果1、選択I→結果1、選択J→結果1、選択K→結果1、選択L→結果1、選択M→結果1 、選択N→結果1、選択O→結果1、選択P→結果1……選択い→結果1、選択ろ→結果1……選択Я→結果1……選択∀→結果1……結果1=最低。
何千、何万という選択肢、その結果は一つ。
僕が何をしても、誰かに何をさせても、結果は変わらない。
そして、僕は絶望した。
これから起こる未来に、変わることの無い運命に、抗う事のできない大きな流れに、拒む事のできない世界に、僕一人の力では覆すことのできない巨大な力と、その意志に―絶望した。
叶う事のない願いを知った。
敵うことのない相手を知った。
上には上がいることを知り、自分の無力さを知り、希望など欠片も無いことを悟り、諦めた。
だから、僕は負け犬だ。
僕は、夢を捨てた。希望を捨てた。願いを捨てた。意思を捨てた。理想を捨てた。気概を捨てた。力を捨てた。志を捨てた。戦意を捨てた。信念を捨てた。祈りを捨てた。過去を捨てた。明日の選択を捨て、未来を捨て、世界を見捨てた。
これから起こる殺戮から、尻尾を巻いて逃げ出した―僕は、惨めな負け犬だ。
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