ワールドコード :3-12
 安蔵刑務所敷地内。
 駐車場に向かう道の途中で、真名は立ち止まり、その刑務所を仰ぎ見る。
 青空の下に立つ真っ白な建物、刑務所というよりは病院のようで、寂寞としたその様はまるで巨大な墓石を思わせる。
 しかし、青空を飲み込む深海のように輝く真名の瞳は、そんな外観とは別の姿を映し出していた。

 「やっぱり……」

 真名の呟きに、先行していた狩野は足を止め、振り向く。

 「なにが、やっぱりなんだよ」

 狩野に促され、真名は自らの能力で感じたものを言語化する。

 「あの中に、もう一人、超能力者がいます」

 真名の後に戻ってきていた狩野の足が止まる。

 「射概さんとは別の、だけどそっちの力の方が大きい」
 「どういうことだ?」

 眉間に皺を寄せる狩野に、真名は刑務所から視線を外して向かい合う。

 「射概さんは私達が来るのを知っていた」
 「あぁ、看守か誰かが事前に言ってたのかとも思ったが」

 違うんだろうな。とそれを否定する狩野に真名は頷く。

 「射概さんから射概さんとは別の能力の臭いを感じました。能力の残滓でしたが、その力は射概さんにまとわりつくように――侵食していました」
 「別の能力……そいつが何かわかるか」

 狩野の問いに、真名は自身の能力の象徴である青く光る瞳を向ける。

 「こうして建物を外から眺めると、その能力が建物を蝕み、外に広がり、世界を変えるように蠢いているのがわかります。それは決定を求めていて、選択を望んでいる。この感触はおそらく――“予知能力”です」

 真名の口から出た新しい事実に面食らいながらも、狩野はその思考を素早く回転させる。

 「つまり、囚人の中に予知能力者がいて、射概はそいつと接触していた。だから今日この日に俺達が訪ねる事を知っていた」
 「はい。そして、この先の事も」
 「この先?」

 狩野は心がざわつくのを感じる。得体の知れない罠にかかったような苛立ちに真名を問い詰める。

 「射概さんが何を言われたのかはわかりません。だけど、何が起こるかはわかっているようでした。狩野さんに敵か味方か聞いたのも、それに関わる事だと思います」

 少し責めるように真名は狩野を見つめるが、狩野は微塵も動揺を見せない。ただ、先を促す。
 真名は哀しげに目を伏せ――

 「射概さんは覚悟してました。未来を変えることを。たとえ、それで罪が重くなったとしても、死刑になるとしても、命が失われるとしても」

 ――そして真名はこれから起こることを告げる。予知能力者のように。

 「射概さんは脱獄します」

 真名の言葉が狩野の耳に届くのと同時に、狩野の目線の先、真名の背後――刑務所から囚人の脱走を告げるサイレンが鳴り響いた。


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