ワールドコード :3-17
 狩野が調べたところによると、その日、青森県沿岸で起きた火災事件は、港のコンテナ置き場で発生したもので早朝、無人の港を現場に向かっていく射概を監視カメラが収めていた。
 ニュース番組で度々放送された監視カメラの映像は荒かったが、その姿は間違いなく射概玄十郎のものだった。
 問題は監視カメラの撮影範囲からコンテナ置き場までは距離があったこと、射概の瞬間移動をもってすれば監視カメラにうつることなく犯行が可能にも関わらず、コンテナ置き場に向かう姿、その現場から立ち去る姿の二度もその姿を映像に収められている。
 狩野とミハエルが見たニュース番組が報道されてから、射概は様々な場所で目撃されていた。都内の繁華街、岩手県の商業施設内、千葉県の駐車場の
監視映像、群馬県の工場施設、秋田県の倉庫街、福島県内の港、時間も場所もバラバラにその姿を現した。
 射概はわざと目撃証言をつくり、監視カメラの映像に捕らえられるように行動しているように思えた。

 「瞬間移動ができるのに、どうして直接目的地にいかないんだろ」

 監視カメラ映像の画面の中を、端から端に走っていく射概の姿を見ながらミハエルが首を捻る。

 「走り回って元気な姿を見せてるんだろ?ビデオレターだよ」

 狩野には射概の行動の目的がすぐにわかった。
 それは、通常の移動方法では不可能な行動を誇示することで、射概の能力を知らないものに対しては情報を撹乱し、その力を知る者に対しては十二分な脅威を与える。
 普通の人間なら、秋田県で監視カメラにうつった人物が、次の瞬間に都内で目撃されることなど理解できない。見間違いか錯覚であると断ずるだろう。
 射概について、多少なりとも話を聞いているものならば、いつ寝首を掻かれてもおかしくはないという恐怖を覚える。脅しをかけられているも同然だ。
 そして、脅しに屈しない場合、射概は更なる行動に打って出る――
 ――これはそういう警告だ。


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