ワールドコード
:3-26
視界を塞がれた状態では時間の感覚が曖昧だ。あれからどのくらい経ったのか。
麻袋の中は薄暗く、息苦しい。
射概玄十郎は呼吸を整える。
頭は麻袋に覆われている。ここがどこかもわからない。
猿轡
《
さるぐつわ
》
を噛まされている。言葉を交わす人間としての扱いをする気が相手には無い。
椅子に座らされ、手は背もたれに回して後ろ手に、脚は椅子の足にくくりつけられている。縄抜けを試してみたが、皮膚が擦り切れるだけで身動きがとれない。
しかし、問題はそこではない。
問題は射概の瞬間移動が完全に封じられていること。
(まさか、奴も俺と同じたぁな)
射概は唾を吐き捨てたくなったが麻袋の中が不愉快になるだけなのでやめた。
(俺をすぐに殺さないのは、俺が殺ったようにみせて、邪魔な奴をぶっ殺すためか)
射概は捕まってすぐに髪の毛や皮膚の一部を削り取られたことを思い出す。犯行現場にはそれらが丁寧に証拠品として残されているだろう。
(今頃、俺の偽者がやりたい放題。そんで、そいつを全部俺に被せようってわけかい)
射概は黒澤の計略に嵌められていた自らの不甲斐なさに猿轡を噛み締める。
(
黒澤
《
やつ
》
にとっての邪魔者を始末した後、俺を始末する。犯人にけじめをとらせたとなりゃあ、連合での発言力も増すってわけだ)
上手くできている。怒りが監禁による体の衰弱を忘れさせる。
腕に脚に思いきり力を込めるが、無情にも縄は射概の体から血を滲ませるだけでビクともしない。
「畜生がぁぁぁぁぁぁぁ!」
言葉にならないのがわかっていても叫ばずにはいられない。怒りに狂う獣じみた咆哮。
叫び続けた射概の息が切れる瞬間、轟音が響いた。
拳銃がドアノブを打ち破る音。そして、止めるものを失ったドアが蹴破られる音。
身構える射概の耳に、無遠慮で緊張感の無い足音と聞き覚えのある声が届く。
「あぁ?んだよ。見張りの一人もいねぇのか?」
声の主は、射概の前まで歩を進めると、乱暴に射概の視界を塞ぐ麻袋を切り裂く。
急に差し込む光にぼやける視界の中、楽しそうに歪む口だけがはっきりと見えた。
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