その行いは、まるで正義のテロリスト。そのニュースを見た子供は一様にこう言った。
「かっこいい……!!」
「ジン!いつまでテレビ見てやがる!さっさと店番しろい!」
「しまった、今日は手伝う約束だった!」
オヤジの怒声が響き、ジンは焦って店先に出る。彼は幼いころに母親を亡くし、家族は二人きり。
ジンの家は貧乏だった。何年前に作られたか分からないようなアナログテレビや、もう誰も使わないアンテナ付きのラジオ、無線通信機に特殊なコンピュータ言語で動く希少PCを扱うような、売れない電気屋を営んでいる。
「いいか、人の言葉なんざ信じるな。結局はその行動、結果しか周りに影響は与えないんだ。俺もお前の言うことは信じてない。だが、機械は違う。こいつらが出力する言葉は、全て真実に繋がってるんだ。な?すごいだろう?」
「よく分かんないよオヤジ」
「バカ野郎が。まぁそのうち分かるさ。機械は正直だぜ」
実際にハッキングの真似事をジンはしていた。機嫌次第で生徒を叱る学校の先生のPCに潜入し、アダルトな閲覧履歴を見つけて保護者と先生達のメーリングリストに一斉送信を行ったり、お金持ちの友人のPCからその友人が溺愛され過保護に育てられている様をクラスに流したり。そういったことを、彼は小学校の頃からやっていた。
しかし、彼が高校を卒業する頃父親が持病だった喉の疾患を悪くし、かさんでいた借金の形に店を手放さざるを得なくなった。家の金を稼ぐ為、ジンは宝来電気という太陽電池メーカーに就職。元々電器に詳しかったジンは、新しい太陽電池システムの開発に従事した。
太陽電池を作ろうなどという会社だったせいか、周りの同僚はみな優しい人間ばかりだった。家の事情を話すと、快く給料の前借りも許されたし、飯代も持たないジンに昼休みはいつも誰かがおごってくれた。
「なんでジンはこの会社に入ったんだ?」
ある日、先輩からそう聞かれた。その人はジンが尊敬する先輩で、名もない電池メーカーだった宝来を従業員百人以上までにしたやり手の部長だった。会社でも一番の評価をされている。そんな彼にも、ジンの技術力は一目置かれていた。
「先輩は、Diverって知ってますか?昔世界中を騒がせた、サイバーテロリストです。俺は、あれに憧れてパソコンの勉強を始めたんです」
「あぁ、あのハッカーか。すごかったな、あれは。だけど、それとうちの会社が関係あるのか?」
「あんな風に世界に影響を与えてみたかったんです。でもテロなんて起こすような時間も余裕も俺の家にはないから、せめて世の人々の為に役立つものを作りたかった。太陽電池なら、他の電力と違って環境被害がないしどこにでも置ける。なのに非効率だからって大企業はどこも開発に積極的じゃない。だから、逆に未開拓な部分も多い。そこに注目したんですよ」
「なるほど……やっぱりジンはできる男だな」
「いやいや、やめてくださいよ!」
「そこまで先を考えられるやつはなかなかいないよ。だがな、俺ももう長くここにはいられない」
「え?」
「だから、後は頼むぞ」
その頃、時代は全て機械化されており、電気がなければまともな生活ができない程だった。だがそれを賄うだけの電力が不足しており、ピーク帯には日によって停電が頻発していた。より効率的に太陽の光を電気に変える仕組みを作れば、こんな自分でも世間の役に立つことができる。太陽光を当てるだけで今までの何倍もの電力を生み出す新しい仕組みを、彼は何年もかけ作っていった。
「この仕組みの太陽電池が大量にあれば、火力発電や原子力発電も抑えられる。それに、この会社も大きくなる!」
そうして開発を続け、やがて完成間近までこぎつけたある日。
宝来電気は、株の大暴落によって倒産した。
それまで業績は悪くなかった。しかし、ある時からメーカーに不良品のクレームが増えだした。中には太陽電池が突然オーバーヒートし家が停電になった、というケースまであった。ある雑誌が宝来電気製品は不良品が80%という記事を流し、大手家電メーカーも宝来製品を控えるようになり、結果株価は大幅に下がり経営は大赤字……倒産となった。同じ頃、ジンの父親も持病を悪くし、亡くなっていた。
だが、ジンは納得がいかなかった。クレームがきた製品は、設計のミスではなく、偶発的に起こってしまったものばかりだった。なのにある時期からそれが何百件と重なるなど有り得ない。
ジンは、電力業界の大手企業に徹底的にハッキングをかけた。特に、太陽電池が性能を伸ばすことによって不利益を被る企業。火力、原子力による発電で利益を上げる企業、また、最近新しいエネルギー源として注目されている電力増幅物質の製造に携わる世界有数の大企業。
結果は電力増幅物質を製造している企業にあった。ライバルを減らす為に消費者を金で雇い、雑誌に賄賂を送り、宝来電気は潰されたのだ。
仕事を探すジンに、前の先輩に俺の会社にこないかと誘われた。その先輩が勤めている企業は、宝来を潰した企業。彼は、敢えてその誘いに応じた。金がなかったのもあるが、内部に入った方が調査がしやすいと思ったからだ。復讐も。
その企業の名は
そんな折、レジスタンスと名乗るグループから連絡を受けた。彼らは玖音の秘密を暴き、打破する為の組織だという。ジンもそこに誘われ、玖音を辞めることにした。
辞める際、かつての先輩のクレジット番号を盗み出し、多額の請求を送りつけてやった。その男は、宝来から玖音に移る為に、宝来の情報を玖音に売り渡していたからだ。
そうして玄峰陣は、玖音と戦うレジスタンスに入った。